イギリス建設業界1 - ロンドンオリンピック後のイギリス建設市場

2019-03-29

 

■オリンピック後も拡大を続けるイギリス建設市場

現在、日本国内の建設市況は旺盛な建設投資に支えられ活況を呈している。建設業界の方々とお話しをしていると、この好況は東京オリンピックまでであり、その後は長期的に停滞していくかもしれないという予想を聞くことがある。一方で、リニア新幹線関連工事や老朽化したインフラ・建物等の改修工事の需要があるために、引き続き業況は良好に推移するという予想もあるようだ。実際にどうなるかは、その時が近づいてみなければ分からない。しかし将来を予想する上で、他国の例を参考にするのも一つの方法ではないだろうか。

近年、先進国でオリンピックが開催されたのはイギリスの首都ロンドンである。ロンドンオリンピックは2012年に開催されたが、この年と次の2013年まで、イギリスの建設市場規模は一時的な停滞は見られたものの、その後は現在に至るまで拡大傾向にある。

 

(出所:Office for National Statistics of UK)

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市場拡大をけん引しているのは主に住宅建設市場である。住宅建設市場拡大の背景には、移民増加等の影響で人口が増えていることが挙げられる。その一方で住宅供給力が不十分な状態が続いているため、政府は住宅建設件数を増やす努力を建設業界に求め、業界各社もそれに対応していく方針を掲げている。また住宅以外の民間商業施設・オフィスやインフラ建設市場も、緩やかに拡大しているのが分かる。そして改修メンテナンス市場の伸びも、新規工事のそれに比べると緩やかではあるが、上昇トレンドにあると言える。

イギリスと日本では、建設市場を取り巻く環境は同じではないだろう。したがって、日本の建設市場がこれと類似した推移をする保証はどこにもない。しかし、おそらく日本の建設市場もオリンピックの開催年とその翌年は、短期的に停滞することが見込まれると私は考えている。そして需要さえあれば、オリンピックの翌々年、つまり2022年頃から、イギリスほどのハイペースではないにせよ、建設市場の再拡大の可能性が日本にもあるのではないかと考えている。

 

■オリンピック後に低下してきている非住宅建設事業の利益率

前述のとおり、イギリスの建設市場規模は拡大傾向にある。このため、建設事業の業績は好調であると思いきや、必ずしもそうではない。住宅建設事業の業績は好調である一方、非住宅建設(商業施設・オフィス、工業施設、インフラ等)事業の業績は悪化傾向にある。以下にイギリスの住宅建設事業におけるシェア上位企業と、非住宅建設事業におけるシェア上位企業の、それぞれの当該事業の過去10年間の売上高と営業利益率の推移を以下に提示する。

 

Barratt Developments(イギリス住宅建設市場売上高シェア1位企業)

 

Galliford Try(イギリス住宅建設市場売上高シェア7位企業)

 

Kier社(イギリス非住宅建設市場 売上高シェア1位企業)[1]

 

Interserve社(イギリス非住宅建設市場 売上高シェア4位企業)

上記データより読み取れるのは、住宅建設事業がリーマンショックが起きた2009年以降、売上高と営業利益率の両方が上昇傾向にあり非常に好況を呈している一方で、非住宅事業の売上高がロンドンオリンピックのあった2012年頃のタイミングで一時的に縮小するものの、再拡大の傾向をたどっているにもかかわらず、営業利益率が長期的に低下傾向にあることである。イギリスでは、非住宅建設事業は徐々に儲けが出にくい事業になりつつあるようである。

この理由は二つある。一つは建設資材が高くなりつつあり、利益を圧迫してきていること。もう一つは人件費が上昇して、同じく利益を圧迫していることである。

イギリスの主要建設会社はこの状況に対応するために、2012年以降、事業モデルを大きく切り替えている。建設事業以外に、建設事業に関係のある領域において様々なサポートサービス[2]を提供することに力を入れ始めた。そのことを裏付けるデータを以下に提示する。

 

(上で紹介した企業各社のデータの出所:各社の年次報告書)

→イギリス主要建設会社のさらに詳細な業績データをダウンロードする場合はこちらをクリック

 

イギリス国内の非住宅建設市場において売上高シェア1位企業であるKier社は2014年に企業買収等によりサポートサービス事業を大幅に拡大させた。これによって、同社全体の営業利益率を上昇トレンドに持っていくことに成功している。また同業他社のInterserve社も2014年に、こちらも企業買収等によりサポートサービス事業を大幅に拡大させた。同社の2017年の営業利益率は、特定のプロジェクトの収益性が大きく低下したために低い数値に留まってしまったものの、2014年から2016年の3年間で営業利益率を大きく向上させることに成功している。

日本の建設市場において、オリンピック後に建設資材の価格がどのように推移するかは分からない。しかし少子高齢化が続く日本において、人件費の上昇傾向はおそらくイギリスと同様に生じうる現象ではないだろうか。利益を確保できるように、高い建設費を顧客に請求できるような環境が継続していれば良いが、もしそうでなければ、日本においても建設事業の利益率は長期的に低下していく可能性も十分にあり得ると思われる。そしてこの時に、日本の建設企業各社がどのような事業モデルでこの環境に適応していくのか?一つのヒントがイギリスの建設会社がとった方策にあると私は考えている。本シリーズでは、次回以降、イギリスの主要建設会社におけるサポートサービス拡充の動きに着目し、様々な情報を提供していこうと思う。

 

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投稿者:松下 哲夫

投稿日:2019年3月29日

 

[1] Kier社の非住宅建設事業の業績にはイギリス国外の建設事業の業績が含まれているが、その割合は約15%程度にとどまっている。

[2] サポートサービスとは、建設後のビルのメンテナンスや清掃、ビルの入口における受付サービスや警備サービスの提供といった、ビルの入居者が快適にそのビルを使用するために提供される各種サービスのことを指す。